力が支配する時代に、憲法の平和理念に基づく外交を

 昨年の11月に、大井九条の会は結成十二年目を迎えた。結成からの11年間、憲法改悪の動きに抗し憲法を守るために、毎月の定例会と街頭宣伝、年2回の平和の集い、そして戦時体験集の発行などの活動を続けてきた。昨年は、8月に朗読劇「反戦平和の詩画人四國五郎~時代を超える絵と言葉の力~」を上演し、11月にジャーナリスト布施祐仁氏の講演「戦後80年と不戦の決意~日本とアジアを再び戦場にしないために~」(DVD)を視聴しての学習会を開催した。また、8月に戦時体験集Ⅳの増補版を発行した。戦後80年を迎え、戦争を体験した人が減り戦争の記憶が薄れていく一方で、軍拡による戦争国家づくりが急激に進行する状況となり、戦争の実相を知り「戦争の記憶」を継承する活動や、歴史を学び戦争を起こさせないための行動がますます重要になっている。
 昨年の10月に発足した高市政権は、安倍政権とそれを引き継いだ岸田政権以上に、憲法の平和理念に反する戦争国家づくりに前のめりになっている。高市首相は、10月24日の所信表明演説で、防衛費の国内総生産(GDP)比2%(約11兆円)への今年度中の引き上げと安保3文書の改定を前倒しで2026年度中に行うことを表明。4日後の日米首脳会談で、これら対米従属の方針をトランプ米大統領に伝え、「日本として主体的に防衛力の抜本的強化と、防衛費の増額に引き続き取り組んでいく決意」を表明した。また、「防衛装備移転三原則」を改定し、「殺傷兵器」の輸出を制限する「5類型」の撤廃による武器輸出の拡大や日本の国是である「非核三原則」の見直し、「専守防衛」に反する原子力潜水艦保有の検討など、前のめりの姿勢を見せている。
 高市首相の危うさを如実に示すのが、「中国による台湾有事は、日本の存立危機事態になり得る」という国会での発言だ。この発言によって日中関係は極度に悪化し、現在も改善の見通しが立っていない。台湾有事と存立危機事態の関係について、歴代政権は意図的に踏み込むことを避けてきた。それは、特定地域や具体的事態を想定しての発言が、軍事的緊張を高め、日本を戦争に引きずり込む危険をはらんでいることを理解していたからだ。その一線を越えた発言は、実際に国民の安全や生活を危険にさらしたという点で、一国の指導者として軽率な行為であり、外交上の失態そのものだ。
 日本政府は、米国と一体となって台湾有事に介入し、中国との戦争に勝利する準備をすることが、中国からの攻撃を防ぎ平和を守る抑止力になると主張するが、そういうやり方は軍事的緊張を高めるだけで、むしろ平和にとってマイナスだ。トランプ政権は、昨年の日米防衛相会談で「西太平洋における有事に直面した場合、日本は最前線に立つこと」を要求した。もし、日本がアメリカの要求に応えて台湾有事の最前線に立てば、中国から参戦国と見なされ、日本全土が反撃の標的となり、国土の戦場化をもたらすことになる。日米安保条約によって戦後の平和が維持されたという認識を改め、軍事力ではなく外交による平和構築を目指すべきだ。
 年明けの3日にトランプ政権は、南米ベネズエラに大規模軍事攻撃を行い同国の大統領夫妻を拘束、さらに同国の政治や経済に関与することを表明した。明らかに国連憲章違反の武力行使であり、世界中から批判されているが、トランプ大統領は「私に国際法は必要ない」と言い、キューバやコロンビア、そしてメキシコなどの中南米諸国にも圧力を強めている。就任当初の一方的な「トランプ関税」の世界各国への押し付けなど、国連憲章・国際法を無視した「力の支配」によって、いま米国は信頼を失い、世界のリスクになっている。こうした状況の下で、これまでのような「日米同盟絶対」で対米従属の政治を続ければ、日本の進路を過つことになるだろう。 世界は今、力が支配する時代に逆戻りしたかのようだ。世界中で戦争や紛争で苦しんでいる人が溢れている。憲法前文に「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」とある。憲法の平和主義は、我が国だけの平和ではなく、全世界の国々の平和の実現を目指している。日本がやるべきは、大国による力の支配が世界の安全保障を脅かしている情勢に対して、国連を中心にした多国間主義を取り戻そうという取り組みに参加し、中心となって活動することであり、ASEANと協力して東アジアの平和構築に向けて憲法の理念に基づく外交を進めることではないだろうか。
         大井九条の会代表 田村嘉浩

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