憲法記念日に寄せて 「戦争国家づくり」ではなく、憲法9条を生かした外交を

日本国憲法が1947年5月3日に施行されてから77回目の憲法記念日を迎えました。
アジア太平洋戦争では日本の侵略行為によって、中国をはじめとするアジア地域で2000万人以上の生命が奪われ、日本も310万人もの犠牲者を出しました。こうした多大な犠牲の反省の上に、前文で「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し」、9条で「武力による威嚇又は武力の行使を」放棄し、戦力不保持・交戦権否認を定めた日本国憲法が作られました。
しかし今、岸田政権は憲法を蹂躙し空洞化する「戦争国家づくり」を一気に進めています。2022年末に決定した「安保3文書」に基づいて、敵基地攻撃能力の保有や軍事費の2倍化、殺傷兵器輸出の解禁など、東アジアの軍事的緊張を激化させる大軍拡が、日米の軍事一体化の強化と共に進められています。また、今年の3月、イギリス・イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出を解禁する方針を閣議決定しました。これらは憲法で禁じた戦力保持違反であり、永久に放棄したはずの戦争の準備です。歴代の自民党政権が憲法に基づく「平和国家の理念」としてきたものを、国会での審議を経ることなく閣議決定だけでことごとく投げ捨てる暴挙です。
4月に行われた日米首脳会談では、米軍と自衛隊の指揮統制のかつてない連携強化に合意しています。バイデン大統領が「日米同盟が始まって以来、最も重要なアップグレード」と絶賛したように、狙いは米軍の指揮統制システムの中に自衛隊を組み込むことです。そうなれば日本は主権の一部を切り離され、先制攻撃を選択肢にする米軍の指揮の下、自衛隊が無制限に武力行使を拡大することになります。
米軍と一体となった軍事力(抑止力)の強化は、相手国との緊張関係を高め、際限のない軍拡競争を招くことになります。軍事力の強化で、武力攻撃を抑止することができると言いますが、むしろ戦争のリスクを高めると言うべきです。国民の命と暮らしを守るどころか、台湾有事で自衛隊が米軍と一体となって中国を攻撃することになれば、自衛隊や米軍の軍事施設は報復攻撃を受け、その被害は日本全土に拡大し焼け野原になってしまうでしょう。
「武力によって平和はつくれない! とりもどそう憲法いかす政治を」。これは、今年の憲法大集会のスローガンです。ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザ攻撃、そしてイランのイスラエルへの報復攻撃のように武力の連鎖が地域や世界を巻きこむ可能性が高くなっています。そうした中で、武力ではなく対話による紛争の解決のためには、国際法や国連憲章、国連の実効性を高めることが必要だという国際世論が大きな流れになっています。国際的な秩序の回復を求める中心はグローバルサウスです。植民地支配を受けた国々が、国際社会で影響力を広げ、大国が身勝手に振る舞う状況が変化しつつあります。またASEAN(東南アジア諸国連合)の活動も参考になります。
東南アジアは第二次世界大戦後の独立戦争やベトナム戦争などで、世界で最も戦死者の多い地域でした。しかし、ベトナム戦争後は戦死者が激減し、その一方で東アジア以外の戦死者が増えていきます。その結果、ベトナム戦争以降の50年間で戦闘で死んだ人が最も少なかったのは東アジアでした。これは偶然ではなく、ベトナム戦争に巻きこまれた東南アジアの国々の、何とか平和を維持しようという努力があったからです。ASEANは1976年に東南アジア友好協力条約(TAC)を結び、「紛争の平和的手段による解決」「武力による威嚇、武力の行使の放棄」を相互関係の指針にして、徹底した対話によって平和を維持してきました。2019年に採択した「ASEANインド太平洋構想」(AOIP)は、TACの活動を域外に広げ、特定の国を排除せず,東アジアのすべての国を包摂した枠組みを活用・発展させ、戦争のない平和な地域にするという構想で、日本・中国・アメリカ・ロシアなど多くの国が賛同しています。
憲法の平和主義は、世界中の国々との平和共存を武力によらない外交によって実現することを目指しています。しかし岸田首相は安倍前首相が提唱した「自由に開かれたインド太平洋構想」に基づいて、中国やロシアを牽制した外交を進めています。日本がやるべきは、特定の国を敵視した軍事力を背景にした外交ではなく、ASEANと協力して東アジアの平和構築に向けた憲法9条を生かした外交です。
大井九条の会代表 田村嘉浩

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