戦後80年の年に、絶対に戦争をしない決意を広げよう
昨年の11月に、大井九条の会は結成十一年目を迎えました。結成からの十年間、改憲の動きに抗し憲法を守るために、毎月の定例会と街頭宣伝、年二回の平和の集い、そして戦時体験集の発行に向けての活動などを続けてきました。昨年は、三年前の2022年12月に閣議決定で改定された安保関連三文書に基づく「戦争する国づくり」がいっそう進むとともに、世界ではロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区攻撃が長期化する中で、国際社会の分断が進んでいます。識者によっては、今の状況は第一次世界大戦の直前と似ており、第三次世界大戦は既に始まっているという人もいます。私たちの活動も、もはや戦争が遠い昔のどこか遠くの出来事ではなく、身近に迫った危機であることを意識した活動になりました。
8月に開催した「平和への思いを語る会」で、「夏の会」の原爆朗読劇『夏の雲は忘れないーヒロシマ・ナガサキ一九四五年ー』を上演しました。この作品は、広島と長崎に投下された原子爆弾によって家族を失った子どもやお母さんの手記や詩、亡くなった子どもたちの最後の言葉などを、朗読のための台本としてまとめたものです。ロシアとイスラエルが核兵器の使用を示唆するなど核兵器の脅威が高まる中で、改めて核兵器のもたらす被害の大きさや非人道性を考える機会となりました。昨年の10月、被爆の実相や核廃絶を国内外に伝え続けてきた日本原水爆被害者団体協議会がノーベル平和賞を受賞しました。ノルウェー・ノーベル委員会は受賞理由の中で、長年の草の根運動と核兵器の「非人道性」を訴え続けた被爆者たちの証言活動が、核兵器は二度と使われてはならないとの「核兵器使用タブー」の確立に貢献したと述べています。被爆者たちの努力が報われたという点では歓迎すべきですが、一方で、核兵器廃絶に関わるノーベル平和賞の受賞は、2017年の核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の受賞以来で、こんな短期間での受賞は、核兵器使用の危機がかつてないほど高くなっていることが背景にあるからと思えば、単純に喜んでばかりはいられません。
今年は、太平洋戦争が終結してから80年の節目の年です。アジア・太平洋地域を舞台にした侵略戦争で日本は、多大な犠牲を国内外にもたらしました。その反省をもとに、日本国憲法を作り、前文で政府の行為によって再び戦争を起こさない決意を固め、憲法九条で戦争放棄と戦力の不保持を明記しました。戦後80年間、日本が一度も戦争に参加せずに来たのは、この憲法の存在と、それに基づく専守防衛が抑制力として働いたからです。しかし、安部政権による安保法制の制定、それを引き継いだ岸田政権による安保関連三文書の改定で、憲法の平和理念は骨抜きにされ、専守防衛は実質的に放棄されてしまいました。今や日本は、憲法九条により禁止されていた敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や戦闘機を含む兵器の製造・輸出を認め、軍事費も倍増し、世界第三位の軍事大国になりました。日米の軍事一体化(より正確には日本政府と自衛隊の、アメリカ政府と米軍への従属強化)と、沖縄から南西諸島にかけてのミサイル基地化が進み、日本は「戦争をしない国」から「戦争をする国」へと国のありかたを変えてしまいました。
岸田政権による安保関連三文書の改定があったあと、タレントのタモリさんが、あるテレビ番組のインタビューで「来年は新しい戦前になるんじゃありませんか」と答え、話題になったことがありました。力による支配が進み、世界が戦争へと向かう流れに対し、それを押しとどめるためには、戦争の実相を知り、絶対に戦争をしてはならないという決意を広げていくことが大切です。大井九条の会は、今年もそうした活動に取り組んでいきたいと思います。
大井九条の会代表 田村嘉浩