憲法記念日に寄せて 対米従属の戦争準備を止め、憲法9条を生かした外交を
日本国憲法が1947年5月3日に施行されてから78回目の憲法記念日を迎えました。
アジア太平洋戦争で日本が行った侵略行為によって多大な犠牲者が出ました。その反省の上に、日本は「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることがないやうにすることを決意」した憲法のもとで、戦後の歩みを始めました。戦後80年間、日本が一度も戦争を起こさず、戦死者を一人も出さなかったのは、この憲法と国民の不断の活動があったからです。しかし、日本を取り巻く安全保障状況は、年々厳しさを増し、新たな戦前、そして戦争がリアルなものとして感じられるようになってきました。
昨年10月27日の総選挙で、自民・公明の与党議席は過半数を割り、改憲勢力の議席数が改憲発議に必要な三分の二を切ったことで、憲法改悪の動きは止まっています。しかし一方で、岸田文雄前政権が力を注いできた大軍拡と日米軍事一体化の動きは、石破政権になっても着々と進んでいます。総選挙と同時期の10月23日~11月1日、自衛隊と米軍を合わせた参加人員約4万5000人という、過去最大級の日米共同統合演習「キーン・ソード25」が、沖縄県与那国島から鹿児島県種子島に連なる南西諸島と九州を中心に、沖縄から北海道まで全国各地で行われました。台湾有事に、自衛隊も参戦して米軍と共同作戦をする事態を想定したもので、その内容はきわめて実践的でした。地対艦ミサイル部隊による対艦戦闘訓練や化学・生物兵器による攻撃への対処訓練、離島から沖縄本島への避難訓練などさまざまな訓練が行われていますが、いずれも沖縄や九州が戦場となり、米軍や自衛隊だけでなく、民間人にも被害が及ぶことを想定しています。沖縄・九州では、次々と自衛隊のミサイル基地が配備され、弾薬庫やオスプレイの基地も作られ、中国をにらんだ軍事要塞化が進んでいます。
これは、日本の国土防衛のための演習や基地強化ではなく、アメリカ政府・米軍の対中国封じ込め・攻撃戦略に基づいたもので、それに従属する形で、日本政府・自衛隊による戦争準備が加速的に進んでいることを示しています。2022年12月16日、岸田前政権は「安保三文書」を閣議決定しました。その中で、日米軍事同盟の強化、専守防衛を逸脱する「反撃能力」の保有、2023~27年度の五年間の防衛費を43兆円に増額することを決めていますが、アメリカの要求に応えたものです。
トランプ政権になって、アメリカの対日要求はさらに高まっています。3月30日、就任後、初来日したヘグセス米国防長官は日米防衛相会談後の共同会見で、「西太平洋における有事に直面した場合、日本は最前線に立つことになる」と表明しました。西太平洋には台湾海峡だけでなく、東南アジア諸国が領有権を巡り中国と緊張関係にある東シナ海なども含まれます。米国は中国が2027年までに台湾を武力併合できる戦力を整えると見積もっています。これを「抑止」するために日本の役割を飛躍的に高め、米中戦争の最前線に立たせるねらいを露骨に示した発言です。日本がこうしたアメリカの要求に応えて米中軍事衝突の最前線に立てば相手国から参戦国とみなされ、日本全土が反撃の標的となり、国土の戦場化をもたらすことになります。
トランプ大統領は、イスラエルのガザでのジェノサイドを事実上支持し、ロシアによるウクライナ侵略を容認しています。また一方的な「トランプ関税」を世界の国々に押し付け、各国の経済主権を侵害しています。国連憲章・国際法を無視し、貿易協定も破り捨てる行動によって、いま米国は信頼を失い、世界から孤立する道を歩んでいます。こうした状況のもとで、これまでのように「日米同盟絶対」でアメリカに従属した政治を続ければ、日本の進路は危ういものになっていくでしょう。今こそ、対米関係を見直すときです。
憲法の平和主義は、世界中の国々との平和共存を武力によらない外交によって実現することを目指しています。しかし石破首相は安倍前首相が提唱した「自由に開かれたインド太平洋構想」に基づいて、中国やロシアを牽制した外交を進めています。日本がやるべきは、特定の国を敵視した軍事力を背景にした外交ではなく、ASEANと協力して東アジアの平和構築に向けた憲法9条を生かした外交です。また、アメリカやロシアなどの大国の横暴が世界の安全保障を脅かしている情勢に対して、国連を中心にした多国間主義を取り戻そうという取り組みに参加し、中心となって活動することではないでしょうか。
大井九条の会代表 田村嘉浩