緊急事態条項を憲法に追加することの危険性は何か
高市政権の軍拡、人権無視の施策が目に余る状態になっているのではないか。国会の議論も経ずに、殺傷能力のある武器輸出の解禁をし、関係大臣と首相の権限で集められたメンバーによる国家情報会議(内閣情報調査室を格上化。国民監視の諜報活動の危険があり、活動をチェックする第3者機関もない)を実現させる国家情報会議設置法を十分な審議なしに可決。そして本人はとぼけているが、2000年5月に憲法前文を「この非常におめでたい一文」を改憲したいと衆議院憲法審査会で明言しており、自衛隊の明文化に前のめりになっている。
私は、自民党が憲法九条の改憲を本丸としているが、それとともに重要な、しかし国民に比較的、受け入れやすい「緊急事態条項」追加の改憲をし、それを突破口に憲法九条の改憲に臨もうと考えているのではないかと思う。その思いは、5月14日に、「緊急事態条項イメージ案」が発表されたことで強くした。そこでいろいろと調べてみた内容を紹介したい。(衆議院が機能していないときの参議院緊急集会、衆議院議員の任期の問題の論考は本稿では割愛した)
「緊急事態条項イメージ案」とは
5月14日に議院法制局・衆議院憲法審査会事務局によって「・・・これまでの討議を踏まえて、・・・中立的かつ専門的な立場から整理・作成したもの」として次のように発表された。
衆議院議員の任期延長や参議院の緊急集会について述べたあと、「緊急事態(地震等による大規模な自然災害、感染症の大規模なまん延、内乱等による社会秩序の混乱、外部からの武力攻撃その他これらに匹敵する事態)の発生により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、あらかじめ法律の定めるところにより、内閣は、法律と同一の効力を有する緊急政令を制定することができる」と述べ、「内閣による緊急財政処分」も行うことができると述べている。
「緊急事態条項」は終戦直後の国会審議でも検討された
終戦直後の114日間にわたる憲法制定の国会審議の中で「緊急事態条項」は論議されたが、最終的には人権を制限するような立法権限を政府が持つべきではないとのことで、衆議院が解散中についてのみ第54条2項で参議院の緊急集会を規定することになった。
明治憲法下の伊藤博文も懸念
伊藤博文が明治憲法(大日本帝国憲法)の解説書として著した『憲法義解』の第8条(緊急勅令)の解説部分で緊急勅令を強く戒め、もし政府がこの特権を口実に使って、議会での審理を回避するための方便にしたり、既存の法律を破壊するための道具として緊急勅令を使ったら、憲法の条文は空文化してしまい、臣民の権利を何一つ保障できなくなってしまうだろう、との主旨を述べている。
日本に於ける緊急勅令の教訓
1928年2月、日本で初めての普通選挙が実施され、労働者や農民が支持した無産政党から8人の代議士が当選、これに危機感を抱いた政府が3月15日、日本共産党員など一斉検挙する 315事件を引き起こした。一層弾圧するために、治安維持法の重罰化(最高刑を死刑、目的遂行罪の新設など)を図ったが、議会で野党や市民の反対にあい廃案になった。しかし、わずか3ヵ月半後、緊急勅令を使い、重罰化を強行している。こうした状況の中、新聞等は概ね批判的であったが、その後、広範な人々がこの法律で検挙されることなった。
「緊急事態条項」を持つ国々でも
コロナに於いて、憲法に緊急事態条項と同等の条項を持つ国々でもそれを発動した国は殆どない。逆に濫用の事例ばかりだ。最近では、2024年12月3日、韓国の戒厳令や、2025年のトランプの関税措置(非常事態宣言に基づいている)があげられる。
ナチスの大統領緊急令(緊急事態条項に相当)を持ち出すまでもなく、これほど施政者にとって使い勝手のよい条文はない。国会の審議なしに施政者が立法権を持ってしまうのだから。
「緊急事態条項イメージ案」の問題点
憲法学者の伊藤真さんは、次のように指摘(要約)している
1.憲法審議会では反対意見も述べられているが、中立的かつ専門的な立場から整理・作成したとして、中立を謳い、無視していること。
2.発動要件として国会による法律の制定を待ついとまがないと曖昧な判断基準で発動されてしまうこと。
3.発動の期間制限がない。
4.立法事項の範囲が決められておらず人権を制限する重要法律などの制定が可能となる。
(以下省略)
現憲法で十分、「緊急事態条項」は不要
武蔵野美大の志田陽子教授は次のように指摘(要約)している。災害時には自治体にもっと権限をもたせたり、災害を想定した準備が必要であり、災害時の行政の不手際を憲法改定の理由にすべきではないと、主張して改憲を戒めている。
二上洋
