77回目の終戦の日に寄せて

戦争の惨禍を繰り返さないためのしたたかな外交を

 日本がアジア・太平洋戦争に敗北した昭和20年8月15日から77回目の終戦の日を迎えました。日本の侵略戦争が310万人以上の国民と、2000万人を超すアジア諸国民の命を奪った痛苦の過去を決して忘れることはできません。また、二月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、戦争が遠い過去のことではなく、いつでも起こ得る現在の問題であることを思い知らせました。毎日のようにニュースで流れるウクライナの惨状は、かつての日本であり、戦争の惨禍は時間と空間を超えてつながっています。第三次世界大戦や核戦争の危険性が語られるようになった国際情勢の中で、今こそ過去の歴史を学び、その教訓の上に「戦争の惨禍を繰り返さない」不戦の誓いを新たにすることが求められています。
 岸田首相は終戦の日の式辞の中で「歴史の教訓を深く胸に刻み」と言っていますが、何が教訓かは明らかにしていません。また、ロシアによるウクライナ侵攻や中国の覇権主義的行動を念頭に、「いまだ争いが絶えることのない世界」のさまざまな課題について、「積極的平和主義」による解決を強調しています。この「積極的平和主義」は、安倍元首相が集団的自衛権の行使を容認し、自衛隊の海外派兵や敵基地攻撃能力の保有などを正当化する意味で使い始めた言葉です。本来は「戦争のない状態をつくる」(消極的平和)だけでなく、「戦争の原因となる構造的暴力がない状態をつくろう」(積極的平和)という理念であり、この理念の提案者ガルトゥングから、「真逆」の使い方だと批判されています。
 7月に行われた参議院選挙の結果を受けて、岸田政権は憲法九条への自衛隊明記と緊急事態条項の創設を掲げ、改憲への動きを強めています。「緊急事態条項」は、大規模災害、戦争などの有事に際し、内閣に国会の承認なしに法律と等しい効力を持つ政令を制定できる権限を与えるものです。国家の緊急事態の名のもとに権力が濫用され、人権が侵害される危険性をはらんでいて、かつての「国家総動員法」のような国民統制につながりかねません。また「憲法九条への自衛隊明記」は集団的自衛権を憲法に位置づけ、米軍と一体となった自衛隊の「武力行使」を認めることです。 これは「戦争放棄、戦力不保持」を宣言した憲法九条に違反し、平和主義にもとづく「専守防衛」を放棄したと受け取られるメッセージを海外に発することになります。
 岸田政権は、ロシアによるウクライナ侵攻を口実に、台湾有事などを想定して敵基地攻撃能力の保有や、軍事費の対GDP比2%以上の大幅増を目指すなどの大軍拡に拍車をかけています。日米軍事同盟を強化し一体化することによって、不安定化が進む安全保障環境から日本を守るためだとしていますが、米国の戦略に追従する形で敵基地攻撃能力の保有や南西諸島のミサイル基地配備を進めることは、逆に日本の平和と安全を脅かす危険があります。最近のペロン米下院議長の訪台と中国による台湾周辺の大規模な軍事演習は、米中両国の緊張をいっそう高め、台湾有事の危険を現実のものにしかねません。
 米中対立が続く中、 日本がすべきことは、米国の戦略に追従し、米国と一体となって中国に圧力を加えることではありません。日米関係を重視しながらも追従することは止め、利害を同じくする東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々と連携して、米中を巻き込むような形で地域の安定化に力を尽くすことです。戦争に勝者も敗者もありません。戦争を始めること自体が政治の敗北を意味します。「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにする」(憲法前文)ために、対話を中心としたしたたかな外交を展開すべきです。
  大井九条の会代表 田村嘉浩

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